ワールド・オブ・ウォッチ
地球から軌道へ:「パイロット・ウォッチ・ベンチュラー・バーティカル・ドライブ」の厳格なテストの記録
Vast社のケルトン・テンビー氏が語る、有人宇宙飛行が特別に困難である理由の見解
Vastのシニアミッションマネージャーであるケルトン・テンビー氏が、有人宇宙飛行がいかに特別に困難であるかを解説します。また、「パイロット・ウォッチ・ベンチュラー・バーティカル・ドライブ」がVastの建設中である世界初の商業宇宙ステーション「Haven-1」への搭載に向けた公式宇宙飛行認定を取得するまでの厳格なテストプロセスについても詳述します。IWCシャフハウゼンとVastはこのほど戦略的なエンジニアリング協業を発表し、同時にIWCはVastの「公式タイムキーパー」にも就任しました。
イノベーションを駆動する力
テンビーさん、人類はなぜ宇宙を探索するのでしょうか?
有人宇宙飛行は、科学・技術の進歩、そして地球と宇宙への理解を深める上で、計り知れない可能性を開きます。医学から生物学、新素材に至るまで、あらゆる分野におけるイノベーションを加速させることができます。同時に、宇宙探索は私たちに新たな視野をもたらし、インスピレーションの源泉ともなります。しかし、宇宙へ行くこと、そしてそこに留まることは、極めて大きな挑戦でもあります。
宇宙飛行 ― 究極の試練
人類にとって宇宙へ行くことがこれほど困難なのは、なぜでしょうか?
人間は宇宙で生きるために進化してきたわけではありません。真空の中では生存できず、100℃を超える高温からマイナス150℃に及ぶ極寒まで、宇宙の温度変動に耐えることもできません。しかし困難は生物学的な限界だけにとどまりません。私たちが設計するシステムや技術もまた大きな課題を抱えています。人間が作るものはすべて、重力、呼吸可能な空気、安定した温度域といった地球上のなじみ深い環境を前提として設計されています。地上では完璧に機能するものが、宇宙船や宇宙ステーションの微小重力環境ではまったく機能しないことがあります。ただし、それも課題のひとつに過ぎません。
宇宙飛行の複雑さをさらに高める要因は他にもありますか?
宇宙飛行がこれほど困難である理由のひとつに、いかなる問題もその影響が著しく増幅されるという点があります。地球上では、サイクリング中にパンクしても、自宅まで歩いて帰るか整備士のもとへ行けば済みます。しかし宇宙では、問題が発生した際に使えるリソースは限られています。だからこそ私たちは、問題が発生する可能性が極めて低い場合でも、リスクの特定・軽減・排除に徹底して厳格に取り組んでいるのです。
多くの場合、比較的シンプルな設計変更がリスクを大幅に低減させます。たとえば機械式時計であれば、フロントガラスに保護フィルムを貼ることができます。こうすることで、宇宙飛行士が誤って手首を鋭利なものにぶつけて文字盤が割れた場合でも、フィルムがガラスの破片が浮遊するのを防ぎます。
安全性を実証、軌道への準備完了
IWCシャフハウゼンの新作「パイロット・ウォッチ・ベンチュラー・バーティカル・ドライブ」のテストと認定プロセスを監督されましたが、その目的は何だったのでしょう?
世界初の商業宇宙ステーション「Haven-1」へと送られるすべての積荷は、厳格なテストと認定プロセスを受けなければなりません。その目的は、打ち上げ時の条件に耐えられることを確認し、乗組員やステーションに一切の危害を及ぼさないことを保証することです。
この時計については、各テスト後も正常に動作し続けることを確認しました。具体的には、回転式ベゼルシステムを使った巻き上げと時刻合わせも検証項目に含まれています。
具体的にどのようなテストを実施したのですか?
まず、打ち上げシミュレーション条件下で時計を試験し、上昇中に受ける力に耐えられるかを検証しました。次に標準的な気圧テストを実施し、最後に時計に使用されている素材の総合的な評価を行い、「Haven-1」の環境との適合性を確認しました。
打ち上げに備えた設計
上昇中に宇宙飛行士が経験する振動はどのようなものですか?
商業旅客機で乱気流に遭遇したとき、機体があらゆる方向へ予測できない揺れ方をする感覚を経験したことがあるかもしれません。ロケットエンジンの振動もそれに似ていますが、方向転換はより急激で、周波数もはるかに高くなります。同時に、エンジンの推力がロケットを上方へ押し上げます。宇宙飛行士と積荷は通常、重力の4倍に相当する約4gの加速度を受けます。小さな積荷については、ランダム振動エネルギー(二乗平均平方根加速度、RMS)を評価基準として使用し、一般的な上昇時のランダム振動は最大3.4gRMSに達します。
時計に対してそれらの条件をどのように再現しましたか?
さまざまな要因から想定される力を考慮した上で、振動台を用いて同様の力を再現しました。具体的には、強い振動を発生させることができるプラットフォームに時計を固定します。時計がいかなる向きでも対応できることを確認するため、3つの軸すべての方向から振動を加え、最大9.56gRMSの加速度に達するテストを実施しました。時計はこれらの負荷をすべて問題なく耐え抜き、テスト後も正常に動作し続けました。
繊細な環境
気圧テストを実施した理由を教えてください。
密閉空間に空気を含むものはすべて、水筒、計測機器、時計も例外なく、気圧テストを受ける必要があります。「パイロット・ウォッチ・ベンチュラー・バーティカル・ドライブ」は気圧チャンバー内でテストを行い、50秒間で大気圧の約半分に相当する急激な気圧低下をシミュレートしました。文字盤はしっかりと定位置を保ち、剥離の兆候は一切見られませんでした。
素材の適合性についても言及されていましたが、それがなぜ重要なのでしょうか?
宇宙ステーションは、非常にデリケートな環境です。広大な砂漠の中のオアシスのようなものです。人間が生きるために必要な条件を再現した、小さな閉鎖空間。たとえば、空気の供給を考えてみてください。人間にとってこれほど根本的なものでさえ、タンクに入れてステーションまで運ばなければなりません。乗組員が滞在している間は、二酸化炭素(CO₂)を絶えず除去し、酸素を補充して人間が呼吸できる正しい混合比を維持し続ける必要があります。乗組員の生命はこれらの精密なシステムが正確に、そして確実に機能し続けることにかかっています。
それが素材とどのように関係するのですか?
積荷に含まれる特定の素材や接着剤は「アウトガス」を起こし、ホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物(VOC)を船内へ放出することがあります。いわゆる「新品のにおい」成分が乗組員に有害となる可能性があるほか、環境制御・生命維持システムのフィルターを損傷するおそれもあります。これは、精密に調整されたこの環境で生じうる多くの問題のひとつに過ぎません。「Haven-1」へ送り込むあらゆる物品や機器の素材を慎重に評価することで、乗組員やステーションのシステムに危険をもたらすものを持ち込まないよう徹底しています。