IWCシャフハウゼンの新作「ジュビリーコレクション」のすべてのモデルに共通しているのが、高品質なラッカー仕上げのホワイトまたはブルーの文字盤です。これらの文字盤は、丁寧に12層も重ね塗りしてからプリントが施され、洗練された魅力を放っています。さらに、最後に職人が手作業で研磨することにより、比類のない奥行き感がもたらされています。個々の文字盤に合わせて複雑な製造工程を調整しているため、コレクションの多彩なモデルに一貫した、完璧な美的バランスが実現されています。
IWCシャフハウゼンが創立150周年を記念して発表した「ジュビリーコレクション」は、合計27種類の限定モデルで構成され、「ポートフィノ・オートマティック “150 イヤーズ”」といったクラシックな3針デザインから、「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー “150 イヤーズ”」のような極めて複雑な高級腕時計の傑作に至るまで多彩な顔ぶれが揃っています。それぞれに異なるコレクションの腕時計であっても、「ジュビリーコレクション」であることは一目で分かります。「コレクションのすべての腕時計をひとつに結ぶ共通のデザインコードは、高度な職人技 が際立つラッカー仕上げが施されたホワイトまたはブルーの文字盤です」と語るのは、IWCシャフハウゼンの文字盤と針のスペシャリスト、ティボー・デ・ナントです。
エナメルのような外観を生み出す特別に開発されたラッカー工程
文字盤にラッカーを塗り重ねるというアイデアは、19世紀後半に登場したアイコニックなパルウェーバー・ポケットウォッチでIWCがすでに採用していたエナメル製の文字盤からインスピレーションを得ています。エナメルは、粉末シリカまたは酸化物をメタルまたはガラスの上で溶解させることによってつくられます。溶解工程を完成前に終了させることによって、塊が凝固し、ガラスのような仕上がりが生まれます。「同一で、絶対的に美しい仕上げをジュビリーコレクションの多種多様な文字盤の全てに実現するために、私たちは極めてエナメルに似ている高品質のラッカーをベースにした、より最新の製造工程を採用することに決めたのです」とデ・ナントは説明します。
ほぼすべてのモデルに使われた基板は、真ちゅう製のプレートでした。サブダイヤルにエンボス加工を施し、窓を開けた後、ブランクが研削され、研磨されます。この後、表面にサンドブラスト加工が施されることで、表面がわずかに粗くなり、ラッカーがより効果的に付着できるようになります。ただし、「パイロット・ウォッチ」は例外です。パイロット・ウォッチの場合は、文字盤が腕時計を磁場から守るための鉄製のケージの上部を形成しています。鉄製ブランクには、腐食を防ぐためにニッケルメッキも施されます。そうしてようやく初めて、実際のラッカー処理を行うことが可能になります。先ず、ホワイトまたはブルーのラッカーベースを4回重ね塗りします。デ・ナントは、「適切な色を見つけ出すために数えきれないほどの実験を行いました。ホワイトの文字盤の方が大変でしたが、それはこの場合のホワイトが、アイボリーカラーでもなければ、純粋なホワイトでもなかったからです」と説明します。
透明ラッカーを何層も塗り重ねることで生まれる視覚的な奥行き
この工程の次の段階で透明ラッカーを12層まで塗り重ねます。使用されるラッカーは、特に研磨に適したもので、液体成分の中に懸濁した固体粒子が含まれています。乾燥後、残留した固体粒子が、結合材、アクリル、ポリエステル等を含む膜を文字盤上に形成します。層を塗り重ねるたびに、文字盤は30分間炉内に入れられ、ラッカーを完全に硬化させます。表面が確実に、申し分のない強い光沢を放つ仕上げとなるようにするため、製造工程のこうした段階はすべてクリーンルーム環境下で実施されます。ごくわずかの粉塵でさえも、エナメルの美しさを損なってしまうからです。一晩寝かせた後、文字盤はフラットに研磨されます。「手作業での研磨工程が文字盤に求められるエナメル効果をもたらします。これによって、研磨後、ラッカーを塗り重ねた全体の厚さがわずか0.1mmしかないにも関わらず、かなりの奥行き感がある印象が生まれます」とデ・ナントは述べました。
「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ “150 イヤーズ”」のように積算計のある文字盤の場合は、他のモデルよりもかなりハードルが高くなります。ラッカーを塗り重ねた後、サブダイヤルの外周はもはや垂直ではなくなりますが、これは積算計の針のために十分なスペースがないことを意味しています。このため、ラッカー工程の後、文字盤は外周が再びナイフの刃のようにシャープな状態になるまで特殊な工具で削られます。
「私たちはそれぞれの文字盤に合わせて製造工程を変えていかなければなりませんでした。」
ひとつひとつの文字盤に合わせて変更される製造工程
デ・ナントや多分野にまたがるプロジェクトチームを悩ませたもうひとつの課題が、ジュビリーコレクションを構成する多彩に異なる文字盤でした。例えば、「ポートフィノ・オートマティック “150 イヤーズ”」には針用の穴がひとつと日付窓しかない一方、「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー・トゥールビヨン “150 イヤーズ”」には針用の穴だけでなく、トゥールビヨンとムーンフェイズの開口部も必要でした。「ラッカーを施した後に、こうした開口部の極めて小さい誤差もぴったり合うように調節するため、私たちは個々の文字盤ごとに工程を変化させる必要がありました。場合によっては、ブランク自体に改造を加えなければならないことさえありました」とデ・ナントは言います。
「手作業での研磨工程が文字盤に求められるエナメル効果をもたらします。」
立体的に浮かび上がるプリント
ラッカー文字盤の極めて魅力的な特徴のひとつに、プリントがあります。これもまた、同様にプリントが施された文字盤を特徴としていた1939年に発表された初代「ポルトギーゼ」(Ref. IW325)からインスピレーションを得て作られています。「このコレクションでは数字やインデックスに植字を使わないことに決めましたが、それはプリントだけで空間的な奥行き感を生み出さなければならないことを意味していました」と、この決断がいかに難題であったかをデ・ナントは説明してくれました。スペシャリストたちは、様々なツールを試し、文字盤が思ったようにプリントされるか、何度も実験を繰り返しました。考えられる最高の結果が達成するには、文字盤デザインの改良が求められるモデルもありました。それは「ポートフィノ・クロノグラフ “150 イヤーズ」の場合で、改良の結果、プリントされたサブダイヤルが驚くほどにリアルな立体感を生み出したのです。
しかし、いかに美しく仕上げられた文字盤でも、時刻がきちんと示されないのでは意味がありません。ジュビリーコレクションではホワイトの文字盤にはブルーの針を、ブルーの文字盤にはロジウムメッキの針を合わせています。スティール製針のコーンフラワーブルーの色は300℃での特殊な熱処理によって、また、ブルーの文字盤に配されたロジウムメッキの針の輝きは4層の電気メッキによって生み出されました。「文字盤、プリント、針の組み合わせは一目でジュビリーコレクションと分かるものです。これから何年も先にオーナーの皆様がIWCの150周年を思い出すたびに、計り知れない喜びをもたらし続けることになるでしょう」と、デ・ナントは自信をもって説明を締めくくってくれました。
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