才能と野心に溢れた完璧主義者のネナド・ムリナレヴィック氏は、スイス屈指のシェフの一人です。彼の料理には、いつも驚きが隠されています。
その原動力となっているものは何なのか?飲食業界の起業家であり、IWCウォッチのファンでもある彼のポートレートをご覧ください。
限界への挑戦
たとえ話題が塩の使い方でも、有名シェフのネナド・ムリナレヴィック氏の話なら、注意して耳を傾ける価値があります。料理に正しく塩をふる方法方法など、まるで取るに足らない知識のように思われますが、このトピックは彼の料理哲学、そして人間性についても多くを明らかにします。「塩で味付けをする時には、その限界を見極めるのが好きです」と、彼は言います。
もちろん、この才能豊かなシェフが、自分の料理に塩をかけすぎることはありません。しかし、限界ギリギリの量の塩を加えることを好むのです。塩の量がわずか1%多くなるだけで塩辛くなるものですが、彼の同僚であるペーター・クノーグル氏がかつて述べたように、ムリナレヴィック氏が供する料理は完璧です。そして彼は、ほかの方法でも、自らを限界まで追い込むことを好むようです。この話はまた後ほど。
ムリナレヴィック氏は、スイスでも指折りの優れたシェフの一人です。2016年、36歳という若さで「シェフ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ、ゴ・エ・ミヨで18点を獲得しました。現在の彼は創造性に溢れ、成功した飲食業界の起業家として活躍しています。また彼は、IWCのアンバサダーでもあります。IWCファンの皆さんは、このことについてもきっと関心をお持ちでしょう。
野心家
ムリナレヴィック氏は、気概と野心、決断力とエネルギーを持ち、目標を達成するために全力で挑む、そんな人物です。当然ながら、IWCのCEOであるクリストフ・グランジェ・ヘアは、こうした人間性のすべてを称えています。彼は最近のインタビューで、「私たちがターゲットとするのは、強い起業家精神を持ち、夢の実現のために全てお情熱を傾ける、そんな人たちです」と語っています。この言葉は、ムリナレヴィック氏のことを示しているようにも聞こえます。
ムリナレヴィック氏が、シェフとして塩を使った味付けについて語ることを好むのは、偶然ではありません。塩味と甘味、酸味と苦味、そしてうま味など、様々な風味を意外な方法で組み合わせることに、彼は注力しているのです。彼のレストランで食事をする人々は、一口ごとに新しい味覚を体験することになります。ある時はクリーミーに、ある時はカリっとした食感に、ある時は熱く、またある時は冷たく、メニューの中を旅するように、驚くべき味覚のバレエを楽しむことができます。
美食の創造とブルータリズム建築の出会い
チューリッヒのフェルデック通り88Cにある、ムリナレヴィック氏の料理スタジオ。工業的な雰囲気とラウンジのような個性を持つ、広いロフトです。ここで彼は、ロックダウンの時期を除き、少人数のグループのために料理を提供しています。ここは彼の拠点であり、ビジネスパートナーのヴァレンティン・ディエム氏と共に仕事をしながら、アイデアを開発し、申し出を検討し、斬新なメニューを創作します。新しいプロジェクトが生まれるのもこの場所です。
例えば、チューリッヒのバーンホフ通りにあるレストラン「リューホフ(Leuehof)」がその一例です。ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング紙が称賛を込めて述べたように、ここは「美食の創作と、豪華さをも感じさせるブルータリズム建築、そして芸術が出会う場所」なのです。かつてバンク・リューという銀行だった建物を利用したこの期間限定の店舗は、バー、レストラン、アート展示場、そしてワインセラーを兼ねていました。このシェフのサクセスストーリーは、さらなる成功によって上書きされました。ロックダウンの影響で予定より早く閉店を余儀なくされたものの、それまでに13,000件もの予約を受け付けたのです。
地域貢献の重要性
ムリナレヴィック氏がずっとシェフになりたいと願い、台所に立つ母親の姿を幼い頃からすでに観察していたと想像する人がいたら、まったくの見当違いです。「そんな人生は送っていませんよ」と彼は笑います。彼は10代になっても、将来どんな仕事をしたいか決めかねていました。その頃、父親がドルダー鉄道の運転手であったため、ドルダーグランドホテルの厨房で見習い体験ができることになりました。
ムリナレヴィック氏は瞬く間に目覚ましい活躍を見せました。情熱に火が付いたのです。この体験により、必ず驚きをもたらす料理創作が彼の中で目覚めました。パークホテル フィッツナウで、彼の料理はミシュランの2つ星を獲得した例をはじめ、才能が飛躍して行きます。そこでもまた、彼は地元の食材だけを使うことを選択し、自らの限界を押し広げたのです。例を挙げると、この厨房では、スイス産ではないためコショウの使用が禁止され、その代わりに地域で栽培されたチリペッパーが使われていました。ムリナレヴィック氏は、オリーブ油も使いませんでした。「スイスにはすばらしい菜種油があります」と、彼は言います。この若き起業家はそれでも、例えばローズヒップ油を使うことで、自分なりの定義に沿った贅沢というものを提供します。ロースヒップの種は硬く、押しつぶすことが難しいため、スイスでは年間2~3リットルしか生産されない特別な油で、その味わいは比べるものがありません。
本人の談によれば、ムリナレヴィック氏はチャレンジ精神が旺盛で、果敢に挑戦することを好むのだそうです。そして、勝利を収めることと、頂点に立つことも。しかし、一旦目標を達成すると、彼は退屈を感じるようになります。ミシュランの星を獲得した時、それが起こりました。
フィッツナウには大勢の客が押し寄せ、グルメ記者たちは絶賛し、美食家たちはうやうやしくテーブルに着席していました。しかし、いつまでも同じ道を歩み続けることに、ムリナレヴィック氏は漠然とした危機感を覚えました。そこで彼は、別の道に進んだのです。人々は間もなく、チューリッヒの「Bauernschänke(バウアンシュエンケ)」や「Neue Taverne(ノイ タベルネ)」で、ムリナレヴィック氏の料理哲学を体験できるようになりました。必ずしも彼が厨房にいたからではなく、クリエイターとしてアイデアを提案したからです。
タイミングがすべて
ちなみに、起業家であるムリナレヴィック氏は、腕時計を無くてはならないものと考えています。特に、料理をする時には欠かせません。タイミングがすべて、と彼は言います。プロであれば、調理時間を把握しています。例えば、豆の厚さや長さに応じて、調理時間は2~3分というように。そしてムリナレヴィック氏は、腕にはめたIWCの時計でそのタイミングを確認するのです。彼の好みは、ブラックのタイムピースで、「シェフ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた時、彼は自分への贈り物としてIWCシャフハウゼンの「トップガン」、正確には「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・トップガン」ウォッチを購入しました。この時点で、IWCはこのシェフが時計に関心があることを耳にし、本人に連絡を取りました。
ムリナレヴィック氏はレストランのオーナーですが、個人的には美食で名高いレストランよりも、雰囲気の良いパブで食事をしたいと思っています。格式の高い店では、堅苦しく面倒な体験をすることが多いからです。例えばスパゲティ カルボナーラのように一見シンプルな料理であっても、洗練された魅力的な一皿にできると彼は言います。但しカルボナーラの場合、料理の性質上、塩の限界量を簡単に超えてしまうので、かなり控えめにして、適切な量の塩で味付けすることが肝心です。
ネナド・ムリナレヴィック氏が手掛ける「Neue Taverne」と「Bauernschänke」の詳細は、こちらをクリックしてご覧ください。
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